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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)36号 決定

参加申立人

高砂市長

足 立 正 夫

右訴訟代理人弁護士

後 藤 三 郎

坂 本 義 典

被参加人

右代表者法務大臣

後 藤 正 夫

相手方

鹿 間 幸 一

主文

一  本件参加申立てをいずれも却下する。

二  本件参加申立てにより生じた費用はすべて申立人の負担とする。

理由

一本件記録によれば、参加申立人(以下「高砂市長」という)は、昭和五八年六月三0日、原審である神戸地方裁判所において、被告(当審における控訴人)であった国(以下「国」という)を補助するためとして訴訟参加の申立てをしたこと、これに対し、同日開かれた第五回口頭弁論期日において、原告(当審における被控訴人)であった鹿間幸一(以下「鹿間」という)は高砂市長が右参加することに異議はない旨を述べ、同日以降、原審において、高砂市長は国の補助参加人として扱われてきたこと(原判決においても、高砂市長は国の補助参加人と表示されている)高砂市長が右参加申立てをするに至ったのは、当初、本件訴訟は鹿間から高砂市長に対する不作為の違法確認請求(鹿間が昭和四八年三月三0日高砂市長に対してした給油取扱所の変更許可申請につき、高砂市長が何らかの処分をしないのは違法であることの確認を求めるもの)であったところ、本件訴訟が原審に係属中の昭和五八年二月一七日、鹿間が右請求を、国に対する二00万円の損害賠償請求訴訟に訴えの変更をし(鹿間の右変更許可申請に対し、高砂市長は消防法一一条二項に基づき許可すべきであるにもかかわらず、これを怠ったため、慰謝料二00万円の支払いを求めるとするもの。ただし、鹿間は、その後右請求を拡張し、原判決に記載のとおり、右請求額を一四六三万二000円に変更している)、同年三月二九日、原審においてこれが許可された結果、高砂市長は右訴訟から脱退し、訴訟当事者でなくなったためであること、右参加申立てに当たり、高砂市長は参加の理由として、①高砂市長は、国家賠償法三条二項により、国に対する求償義務者になり得るので、行訴法二二条一項の「訴訟の結果により権利を害される第三者」に当たる②高砂市長は、国の機関委任事務である消防法の許可、不許可処分をするに当たり、固有の権能として「市環境保全条例」による審査をすることができるのであり、本件訴訟の結果により地方公共団体の長としての固有の権能を害されるとし、行訴法二二条一項、二三条一項、民訴法六四条を右参加申立ての根拠条文として挙げていることを認めることができる。

そして、高砂市長は、当審においても、平成二年二月一日付上申書をもって、

①  前記訴えの変更は、行訴法二一条一項により特別に認められた制度に基づくものであるところ、それは請求の基礎に変更がないことが要件となっているのであるから、本件訴訟は、従前の抗告訴訟によって達成しようとした権利利益の救済と同一基盤に立つものである。

②  損害賠償請求は民事訴訟手続によるとされているが、本件訴訟は行訴法が特別に創設した形態のものであるから行訴法二三条一項の適用がある。

③  行訴法二三条一項は、関係行政庁を訴訟に引き入れて、その有する訴訟資料等を提出させ、もって適正な審理を実現することを目的とするものであるから、本件訴訟の前提となる行政処分の処分庁である高砂市長の参加は右目的にかなうものである。

④  高砂市長は、国に対する損害賠償請求については、直接の法律関係はなく、また行政機関としても直接利害関係はないが、訴訟の前提である行政処分の処分庁としての関係を有しているので、争点訴訟による行政庁の参加と同じく、高砂市長の参加を認めることにより、適正な訴訟審理を図ることができる。

と主張している。

二そこで、本件参加申立ての適否につき判断するに、本件訴訟は、前記のとおり、鹿間の消防法に基づく給油取扱所の変更許可申請に対し、高砂市長が右許可を与えなかったことを理由とする、国家賠償法に基づく損害賠償請求事件であり、民訴法に則り審理される通常の民事訴訟事件であって、行政庁の行為については違法の有無が問題になるのみであり、その判断の前提として行政処分の存否やその効力の有無が問題となる、いわゆる争点訴訟でもなく、そもそも行政法二三条一項の適用が認められる訴訟形態ではないのであるから、右行訴法二三条一項に基づく行政庁の訴訟参加を認める余地はない(高砂市長は、右のほか、行訴法二二条一項による訴訟参加も主張しているが、行政訴訟における行政庁の訴訟参加は行訴法二三条一項の要件のもとにおいてのみ許されるのであり、このほかに行訴法二二条一項に基づき行政庁の訴訟参加を認めることはできない)。

次に民訴法六四条に基づく補助参加については、高砂市長は、国の事務につき、法の規定に基づき国の機関としてその事務を担当したものにすぎず、また権利主体ともなり得ないものであり、民事訴訟手続においては当事者能力も有していないのであるから、民訴法六四条の「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」には当たらないというほかはない。なお、高砂市長は、国から求償される立場にあるとも主張するが、権利主体でもない行政庁が求償を受けることはあり得ないというべきである。

更に、本件訴訟においては、前記のとおり、高砂市長は原審において国の補助参加人として扱われてきているのであるが、これは鹿間が高砂市長の参加申立てに異議はないと述べたためであろうと推察されるのであり、そのため本件参加申立てについてはいまだ許否の裁判はなされていない状態であるといわざるを得ない。

以上の次第であって、本件各参加申立てはいずれも理由がない。

三よって、高砂市長の本件各参加申立てをいずれも却下し、参加申立てにより生じた費用の負担につき民訴法九四条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石川 恭 裁判官福富昌昭 裁判官松山恒昭 )

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